各教室からうっすらと教師の声が聞こえる
我が高校はタダイマ5限目
昼飯後でちょうどサボりたくなる授業時間
俺は一段飛ばしで空に近い場所へ続く階段を登っていた
最後の階段の前には立ち入り禁止の札と鎖がかかっている
その鎖をまたぎ階段をダッシュで登る
ギッと錆びた扉を開くと
青空とフェンスが目に飛び込む
フェンスの高さは多少心配になる高さ
高校生男子ほどの身長なら相当低くなければ余裕で飛び越せるだろう
背が標準より高ければ女子だっていけるはずだ
勿論簡単にいけるからと言って
フェンスの向こうに行く奴はそうそう居ないだろう
なんてたって向こうに行けば2歩ほど歩けばまっ逆さま
そんな所に用がある奴なんて
飛び落ちたい奴位しかいないだろう
所謂、自殺
幸いながら俺には縁のない話
一般家庭にうまれ
普通に育ち
普通に悩む
標準な俺には別世界
俺が屋上に来た理由はただ1つ
昼寝だ
この屋上は色々といわくつきで
来る奴なんて早々居ないから
サボりには最適
実際2年間ココで人を見たことなんて1回もない
扉をくぐり1段下りて不意に右を向く
そこには人が居た
人。
そこで見る始めての人。
飛び落ちる、人。
「てめぇっ何やってんだよっ」
「え?」
振り向いた奴は俺の声に驚いたのか俺に驚いたのか
取りあえず目を丸くして・・・・・落ちる?
「うわぁっ」
絶妙に間抜けな叫び声をあげて
そいつは右手でフェンスに掴まった
「あ、ぶなっ・・・・い・・・・・」
「お前のが危ねぇよっ」
俺の言葉を無視してそいつはのんきに’よっと’と言いながら
フェンスを乗り越え軽く息をついた
「良かった、落ちなくて」
そう言ってそいつは俺に苦笑いを見せた
「は?だって、お前、落ちようとしてたんじゃ・・・・」
俺の発言にそいつは心底驚いた顔をして
何かに気付いたように’あぁ’と声をもらした
「フェンスの外に居たから?」
「そうだよ、っつーかフェンスの外に落ちる以外の用でもあんのかよ?」
俺の発言にそいつは軽く笑うと、言った
「あるよ。空を、見てた」
そいつはそう言って笑うと
フェンスの前に座りこみ、そこにもたれかかった
「そら・・・・?」
なんともなしにそいつの前に座りこみ
首を傾げる
「空なんて、ここからでも見えるだろ?」
「フェンスがない方が、きれいに見える」
そう言って上を見上げる
青い空に白い雲がゆっくりと流れていた
「だからって危ないじゃん」
「そう・・・・?足踏み出さなかったら、落ちないよ」
「バランス崩したら終わりだぞ?」
「大丈夫だよ」
そいつは楽しげに笑った
不意に猫の鳴き声が聞こえた気がした
辺りを見まわすと黒い猫がこちらにトコトコと歩いてくる
「あ、猫・・・・・・・」
俺の呟きにその猫は近寄って来て
俺の足に身体をすりよせてきた
「何?お前何処の猫?」
「ん・・・?・・・・あ」
目の前のソイツは空から目を離し
やっと猫の存在に気付いたようだ
「その子、僕の猫」
ソイツが’おいで’と猫に声をかけると
猫はそちらへ歩いて行き
ソイツの腕に抱かれた
「学校に猫連れてきてんのかよ・・・・」
「まさか、学校がなわばりらしくて・・・・
 時々入りこんじゃうんだよ」
「でも、見た事ないぞ?」
「そう?まぁ、生徒が廊下に居ない隙に入るらしくて
 僕も、あんまり見た事、ない」
猫を撫でてやりつつ
ソイツは苦笑しながら言った
「僕も、屋上に来るの、始めてだし
 そっちは?」
「常連・・・・・お前、名前は?」
「ん?この子?」
そう言って猫を少し持ち上げる
「お前だよ、馬鹿」
「僕のは・・・・・何でも良いよ
 ちなみにこの子はセツ」
「猫より、お前のが名前呼べないと不便だろ?」
俺の言葉に猫・・・もといセツは気分を害したのか
「にゃぁ」と鳴くと俺から顔を背けた
「好きに、呼んだら良いよ
 名前、あんまり好きじゃ、ないから」
「じゃぁ・・・・・ヒト」
「ごめん、せめてもうちょっと、考えて」
「・・・・・駄目?」
「だめ」
即答かよ。
まぁ、喜ばれるとは思ってなかったけど
てか、喜ばれたら逆に困る
「じゃあ・・・ネコヒト」
「・・・・・・考え、た?」
「それなりに」
「・・・・・なら、良い、けど」
良いのかよ。
ネーミングセンス0な俺に苦笑いしながら
ネコヒトはセツを撫でる
「君の名前は?」
「一宮 新希(イチミヤ アラキ)」
「新希・・・・・そう、よろしく」
そう言って笑ったネコヒトは
瞬きをする内に消えてしまいそうな
そんな白さがあった
「ねぇ、新希は・・・・・新希は明日死んだら、どうする?」
「は?」
セツを時々撫でてやりつつ2人で空を眺めていると
ネコヒトは急に呟いた
自己紹介から約5分程たった所だったと思う
「明日、方法はなんでも構わない、どうする?」
空から目を離しネコヒトは真剣な目でこちらを見る
「そんな事、言われてもさ・・・・考えた事ないし」
「なんで?どうして考えないの?」
「そりゃあ・・・・・考える機会がないから
 普通に生きてりゃ明日死ぬ事なんて考えない」
俺の返答にネコヒトはグッと唇を噛んで俯き
しばらく黙っていた
「・・・・・じゃあ、誰なら考えたって不思議じゃないの?
 誰が、普通に生きてない人なの?」
「あー・・・・んー・・・・・・そうだな
 戦争してる国に居る人とか?
 世界に絶望してる人とか
 死にそうな人じゃない?」
「その人達は普通に生きてないの?
 じゃあ、どうしてたら普通なの?」
「俺みたいなやつだよ」
小さい子供のようにネコヒトは疑問符を並べ立てた
俺は少し呆れながら、その質問に1つ1つ答える
「考えてよ、明日、1時間後、1分後、1秒後に
 死んでしまうかもしれない可能性を・・・・・・どうして、考えないの?」
ネコヒトはそう呟きセツを抱き上げ
ゆっくりと経ちあがった
「おい、何処行くんだよ」
俺の言葉を無視してネコヒトは歩く
そして、錆びた扉が音をたてる
「待てよっ」
ガチンッと音を立てて扉が閉まった
そこにとどまって午後の授業を全てサボり
青い空が赤く染まっていくのを眺めていた

次の日、いつものように立ち入り禁止の鎖をまたぎ
錆びた扉を開いた
当たり前のようにそこには誰にも居ない・・・・・はずだった
「にゃぁぅ」
真っ白い何かの上にセツが寝転がっていた
「お前・・・・・どうやって入ったんだよ」
重めの扉を開けるのは無理だろう
人が開けなければ・・・・・
「ネコヒト?」
俺の声に返ってくる言葉はなく
セツが1匹気持ちよさげに目を細めていた
セツに近寄ると真っ白い何かが
ノートの1ページだと言う事が解った
「セツ、ちょっとごめんな」
セツを抱き上げ半分に折られた紙を開く

―空の上のネコより。


 君は今何をして居ますか?

 君は今何を考えていますか?

 君は今平和を願っていますか?

 君は今想っていますか?

 少しだけ同じ空の下の

 同じ人の気持ちを考えてはくれませんか?


後で偶然耳にして解った事だが
ネコヒト・・・・本名・相宮 響は8年前交通事故で亡くなったそうだ