※この小説は虐待を題材としています
多少の暴力シーンや血が出てきます
苦手な方は、読むのをお控え下さい。
読んでからの苦情はお断り致します。



リンさんと会う日、
僕は約束の時間よりも早めに公園に付いていた、
この間と同じように、噴水の前のベンチに座って
リンさんを待っていた
「りゅーうくん!!」
後ろを振り向くと、リンさんが慌てて
こっちに走ってきていた。
「ごめんっ!遅れたっ!」
「いえ、僕が早めに来てたんで」
「そう?ごめんねぇ」
そう謝りながら、リンさんは僕の横に座って
この間と同じ様に、手を太陽にかざした
「最近僕コレばっかりやってるの
 バイト中にやってたら店長に怒られちゃった」
悪びれた様子もなく、
リンさんは声を出して笑った。
「リンさん」
「ん?何かな?」
「リンさんは・・・・、
なんで何時も笑ってるんですか?」
「・・・・・え?」
・・・・・・・・・不味い・・・・
変な質問をしてしまった・・・・・・・・。
「ごっごめんなさい!」
僕が慌てて謝っても、
リンさんは呆気に取られた顔をしている。
「あの、リンさん?」
名前を呼ぶと、
リンさんは急に声を上げて笑い始めた、
そんなリンさんを見てオロオロしていると、
リンさんの笑い声が次第に止んで来た。
「あの?」
「ごめん、ごめん、つい笑っちゃったよ、
ね、流君、今度は僕が喋ってもいいかな?」
「あ、はい、どうぞ」
そう言えばこの間からリンさんに、
話を聞いてもらってばっかりだった。
「あのね、僕の友達がね
 流君と同じ事言ったんだよ
 どうしていっつも笑ってるの?って
 楽しいからだよって言ったけどねぇ
 違うんだよね・・・・、
 まぁこの状況で楽しいから笑ってるって
 言うのも変だしね、あ、流君と会ってる時は
 楽しいよ?」
「えと、ありがとうございます?」
一気に話されて、
ちょっと頭がこんがらがったから、
一様、最後の言葉だけに反応を返しておいた。
多分、不思議そうな顔をしていた筈だ
「流君、’普通’ってどんなだと思う?」
「普通・・・・ですか?」
「そう、流君が思う’普通の人’」
リンさんはそう言って、また空を見上げた、
手を太陽にかざしてはいなかったけど。
「普通・・・ですか・・・?
 ええと、普通って言うと、
 僕みたいじゃない人?
 でも僕にして見ると’今の僕’は普通なんですよ
 だからと言って僕を基準にするのも
 間違ってるし・・・・」
僕が悶々と悩んでいると、
リンさんが少し慌てて僕の考えを中断させた。
「あぁ、ごめんごめん、もういいよ
 変な質問しちゃったね」
「あ、いえ、ごめんなさい
僕なんにも役に立ちませんね」
「そんな事ないよっ!それよりねぇ―」
それからリンさんは
その質問をしてこなかったけど、
僕はずっと考えてた、’普通’ってなんだろ。
今日は早めに帰ろうとリンさんが言ったので、
リンさんが家まで送ってくれた、
帰り道の途中でリンさんの質問に対して
僕なりの答えが出た。
「リンさん!」
「はい!?」
どうも、沈黙だったのに
急に声を出した僕に驚いた様だったけど、
せっかくまとまった答えを忘れないうちに、
僕は喋り出した。
「僕は皆、普通だと思います!
 どんな人が普通で
 どんな人が普通じゃないなんて
 ないと思うんです!
 だって自分にとっては自分が普通だし
 だから僕も普通だしリンさんも普通だと思います」
僕が喋り終わってから、
リンさんの方を見るとやっぱり驚いていた。
「えっと・・・・
 ずっと考えてたんですけど・・・・・」
「くっ・・・あっはは!そっかぁそうだね!
 意外と簡単だったな、流君の言う通りだ」
そう言ったリンさんはニッコリ笑って
僕の頭を撫で、お礼を言ってくれた。
「それじゃあ、また来週ね!」
「あ、はい」
何時の間にか家についていた、
リンさんは何時もよりも、
機嫌良く帰って行った。


僕は流君を送って行った帰りに
1人、口元に笑みを浮かべた、
流君の答えは、僕にとって意外だった。
スズ・・・・
ねぇ、今とっても楽しいんだ
君が退院できたら流君に会わせてあげるよ。
とても、楽しくさせてくれて
素敵な発見が出来るんだ。
きっと・・・・・
きっとスズもその命がつきるまで
生きてみようと思えるよ。
それに、寂しいだろう?
たった1人で自らの命を絶つのは。


「うーん・・・・ヒマだなぁ・・・・・・」
リンさんとの約束の日まで後、2日
僕は自分の部屋に寝転がって、
「ヒマだなぁ」を連発していた。
「早く2日立たないかな・・・・・」
ガラガラっと玄関の戸が開く音がした。
「!?」
今はまだ6時だ、
最近母の帰りが早い気がする。
部屋に居るからと言って安心できない、
母は自ら部屋に入り
僕を虐待する時がたまにあるのだ、
見たくないのなら探さなければ良いのに。
僕はいつも隠れている押し入れの中に飛びこみ、
慌てて押し入れの戸を閉めた。
母が家を歩く足音が聞こえた、
頼むからココに来ないで・・・・。
心臓の音が聞こえる、
外に聞こえてはいないかと
心配になるほどの大きな心音だ。
「ぁ・・・・・」
押入れが開いて、そこに母が居た・・・・。
「流?どうして隠れるの?」
怖い。
こわい。
コワイ。
母の手が僕の手首に伸びて来た。
「やだ・・・・たすけて・・・・・・」
ズルリと部屋の畳に引きずり出されると、
物凄い音が頭に響いた、
それと共にお腹に痛みが一気に来た、
お腹を蹴られたんだと解った頃には、
既に顔を殴られていた、
2発目からは何処を殴られたとか、
そんなの解らなくなったし、
覚えていても得はないから、
頭の中を空っぽにした。
ただ痛いだけ・・・・、
そんな僕の脳裏によぎったのは
明後日のリンさんとの約束だった。


「あっれぇ・・・・?」
僕は流君との約束の日、
あの公園に来ていたが彼の姿はなかった
「んー?どうかしたのかな?」
不思議に思いながらも、
僕はこの間と同じベンチに座って空を見た。
「まぁ、いっか待って見よう・・・・」
今日もいい天気で
空が青くてとても綺麗だった、
バイトも休みだし、ラッキーだな、と思いながら
流君を待っていたけど
結局、彼は6時までに来なかった、
バイトもないので居ようと思えば居れたが、
バイトが休みだと知らない彼を
コレ以上待っても無駄だと思った。
「・・・・・家に行ってみよう。」
1人でそうつぶやくと、彼の家へと向かった、
なんだか執念深い男のような気がしないでもないが、
少し気がかりだった、
約束を破るような子でもなさそうだったし
ムリならそう連絡するだろう、
もしかすると何かあったのかもしれない。
「ココだ、ちゃんと覚えててよかったよ
 いっつも流君の横をなんとなく歩いてるからなぁ・・・・」
木造の家の表札を見ると「泉」と書いてある
フと僕が歩いてきた道を見ると、車がこっちに向かってきていた、
いやな予感がした僕は流君の家から離れると、
その車をジッと見つめた
案の定その車は流君の母親の車だった様だ。
「まだ6時過ぎなんだけど・・・・・」
流君から母親が帰ってくる時間を聞いていた僕は
1人首を傾げていた。
でも、帰ってきたのならしょうがない、
たぶん流君とは会わせてくれないだろう、
年齢が近ければなんとか会えるかもしれないが
こっちは17才で向こうは8才だ、
ほぼ一回りは違うのに怪しまずに
会わせてくれるとは思えないし
僕と会った後の流君の仕打ちを考えると、
そこまでして僕に会うメリットがあるとも思えなかった。
「また来週待ってみよう・・・・・」
後、2週間で夏休みがあけてしまう、
それまでに彼に会いたかった。
でも、僕の願いに反して
流君は次の週も公園には来なかった、
家にも行ったが、
また流君の母親が家に帰って行くのを見た。
「やっぱり、あれが不味かったかな」
帰り道、僕は数週間前と同じような事で悩んでいた。
「んー、でもいいと思うんだよね
 自分が良ければ死んじゃっても・・・・」
最近、悩む事が多くなってきた、
そのせいかどうも頭痛がする。
「来週で終わりか・・・・・」
今日から1週間後は夏休み最後の日だった。
「来週こそは会えますようにっ!」
そう言って僕は空の月に手を合わせた。


月が窓から見えた。
僕はあの日から、母に毎日殴られている、
食べ物も口にしていないけど
不思議とお腹は空かなかった、
多分、
そう言う事を通りすぎているんだと思う。
リンさんはどうしたんだろう、
僕の事などもうどうでも良くなっただろうか。
ガラガラ
帰って来た・・・・・。
僕が部屋の障子を見つめると、
母親が入ってきた。
母は僕の所に来て、
また、僕を殴った。
痛い。
いたい。
イタイ。
「っ・・・・!」
眩暈がする。
吐き気もする。
何度も頭を机に叩きつけられて、
僕が畳に倒れこむと、
しばらくして、何故だか母親はバックを
放り出して慌てて出て行った。
手を頭にやると、血がベッタリとついた、
母は僕が死んだと思ったんだろうか・・・。
それも、いいかもしれない
このまま、死んでしまうのも・・・・
いいかもしれない・・・・。
不意に僕の頭にリンさんの声が聞こえた
「だから流君が幸せなら
 死んでしまってもいいと思う。
 ・・・・でも・・・・・それは幸せ?」
・・・・・・・・・・・
違う。
ちがう。
チガウ!
こんな事で死ぬのは幸せなんかじゃない!
僕がココに存在しているのは
タブン
ミライのドコかに理由があって。
今、闇をさまよっているのも
タブン
コレからの僕に理由があって。
こんな事を考えて悩んで苦しんでいるのも
タブン
今までの僕のイキテイル証で。
ダカラ
ゼッタイニ
僕は・・・・まだ・・・・・死ねない。
母のカバンから落ちたメモ帳とペンで、
僕は・・・・・
必死に・・・・
言葉を書いた・・・・。
ソレを書き終わると、僕は力が抜けてきて
メモ帳とペンを手放すと、ぼーっと月を見た
月は綺麗に輝いていた。
ゆっくりゆっくり手を上げて
その月に手をかざした、
太陽より光は強くなかったけど、
でも、
綺麗だと思った。
・・・・・・・・・・・幸せだな。


「あれ・・・・?」
夏休みの最終日、結局流君は公園に居なくて、
家に来たけど
また母親の帰宅と被ってしまった、
仕方なく帰ろうと思って、
来た道を戻ったけど、流君の母親が
慌てて家を飛び出して行った。
不審に思い僕は流君の家へと戻って、
思いきって家の戸を開けてみた
「鍵・・・・開いてる・・・・・」
不法進入罪だったがこの際関係ない、
確実に何かがおかしかった
「流君!!流君!!」
僕は右の障子を開けると、叫び声を止めた。
「りゅう・・・・・くん?」
彼は青白い顔をして畳に横たわっていた。
「・・・・・・・」
ゆっくりと近づき、
彼の痩せてしまった頬に手をやると、
もう既に冷たくなって来ていた・・・・・。
僕が呆然としていると、
フと手元にある紙に目が行った
「・・・・・これ」
ソレは流君が書いた短い文章だった。
そして・・・・・彼の最後の言葉だった。
「ぼくは 生きたいよ お母さん
 ぼくは 生きたかったよ
 ずっとずっと生きたいよ」
僕が・・・初めて・・・涙を零したのは、
弟のスズとは全く関係なくて、
自分に繰り返される母の虐待からでもなくて、
1人の少年の・・・・・泉流の死だった。
「な・・・・んで・・・・?」
彼の死にどんなに疑問を投げかけても
意味はなかった。
僕は永遠と思えるくらいに
長い時間泣いていた。
涙が止まらなかった。
僕は初めて知った、
「自分が良ければ死んでもいい」
なんて事
間違いだ
誰かが死ねば誰かが悲しむ、
それを僕は君に教わった。
僕は、君の分も精一杯生きよう
この、1つの命が朽ち果てるまで・・・・。
僕はしばらくして目元の涙をぬぐうと、
彼に笑顔で言った。
「さようなら、流君」
去り行く君を
精一杯の笑顔で送った。
僕は願う
君が空で1秒でも長く笑っていられるよう、
君が空で涙を流さぬよう、
君が空で沢山愛してもらえるよう・・・・。
願うわくば
君の行く先に
幸多からんことを・・・・。