※この小説は虐待を題材としています
多少の暴力シーンや血が出てきます
苦手な方は、読むのをお控え下さい。
読んでからの苦情はお断り致します。



「・・・・・・・ん・・・・?」
目を開けると、やはり物置部屋の前の廊下に転がされていた
多分、母が自分の目に見えないように
ここに連れて来られるんだと思う。
「はぁ・・・・・・」
ため息をつくと、ゴロリと寝返りを打った、
体のあちこちがズキズキと痛む。
その痛みをガマンしながら、僕は遠くにある玄関を目を凝らして見た、
少しだけ光が見えるから多分、昼か朝だと思う。
今は何時で、何日なのだろう・・・・・・。
僕は痛む体を支えながら居間に向かった。
気を失うと、目を覚ましても体中が痛くて何日か動けない、
何度か目を開けた記憶があるから、
多分、日にちは立っている筈だ・・・・・。
居間につき、テレビをつけると、僕は顔を真っ青にさせた
恐らく、元々真っ青だったと思うが、表現はそれがピッタリ来るのだ。
今日はリンさんとの約束の日だった・・・。
「1週間も寝てたのか・・・・・」
思わずつぶやいてしまった、
我ながらよく1週間も寝ているだけで過ごせるものだ・・・・。
だが、あれは寝ていると言うよりも気を失っていたと言う感じだが。
「・・・・早くいかなきゃ・・・・」
約束の時間も直ぐそこだった。
僕は慌てて自分の部屋に行き、服を着替えた。
家を出る前にテレビを消すと、
1週間前と変わらずにセミの鳴き声がうるさかった。
「リンさん!!」
辛い体に鞭を打って、僕は待ち合わせの場所まで走った。
案の定そこには既にリンさんが立っていた。
「おはよう、
 あ、お昼だからこんにちわだね」
「あ・・・こんにちわ、遅れてすいません」
僕が頭を下げると、
リンさんの控えめな笑い声が聞こえた。
「いいよ、気にしてないから。
 さて!近くの公園で語りますかっ!!」
そしてリンさんは元気よく歩き始めた、
1週間前と同じ様に僕の手を握りながら。
「・・・・・・うーん、
 やっぱ語るって言い方オカシイかな?」
公園に行く途中、また急にリンさんはつぶやいた。
多分さっきの事を言ってるんだろうけど、それでも僕の反応は少し遅れた。
「そんな事ないですよ、語るんですし」
少し笑いながら答えると、
リンさんは「そうか・・・」と納得した様に言った。
僕らが1週間後に会おうと約束したのは、
母の事だけでなく、学校の事や友達の事などを話す為だった。
だから、語ると言う表現は間違ってはいないだろう
「よいしょっと、やっぱり夏は暑いね」
公園に着いて噴水の前のベンチに
リンさんが座ったので、僕もその横に座った。
リンさんは相当暑いのか、手をウチワ代わりにパタパタやっていた。
「暑いなら、髪切ったらどうですか?」
「あぁ、そうなんだよね・・・・・。
 でもさ、切るのがめんどくさいのね、
 だから切ってないの。」
どっちかと言うと長い方がめんどくさそうな気もしたが、
僕も標準よりは髪が長いからその事は言わない事にした。
空を見上げると青い空に入道雲があった、
綺麗だと素直に思えて
幸せだと素直に思えた。
「いいなぁ・・・・・・」
「え?」
どうもリンさんは急に主語を抜いて喋る人のようだ。
内容も脈絡がないから、たぶん何時まで立っても馴れないと思う。
そう考えてから、リンさんと長い間付き合って行こうと考えている
自分が不思議に思えた。
「夏ってね、好きなんだよね、
 たぶん季節の中で1番好き。」
そういいながら、リンさんも
空を見上げるのを僕は横目で見ていた。
「なんで?」
一緒に空を見上げたまま僕は聞いた、
端から見るとオカシイかもしれない。
「空、綺麗でしょ?」
「うん」
「幸せだなって思えるの綺麗な空を見たら」
僕は驚いて、空から目を離して、
リンさんの方を見た、僕も同じ事を思っていたから。
そんな僕を横目で見て少し笑うと、リンさんは話しを続けた
「僕が空を見て幸せだなって感じるのは
 幸せのちょっとした一部なんだよ。
 幸せな事ってね、いーっぱいあるんだよ
 こうやって綺麗な空を見上げるのも、
 夜に綺麗なお月様見上げるのも、
 毎日、朝、目を覚まして、
 1日を過ごして、その中で
 笑ったり、泣いたり、怒ったり、苦しんだり
 当たり前だけどね、それは幸せな事で
 生きてなきゃ出来ない事なの」
相変わらず空を見上げながらリンさんはそう言った。
「生きてなきゃ出来ない・・・・?」
「そう」
そしてリンさんはまたニッコリ笑った、
そんなリンさんを僕はジッと見つめていた。
「ねぇねぇ、これ、綺麗。」
「?」
リンさんは僕の手を持って、
太陽に向かってその手をかざした。
「ね?」
リンさんの言う通り、指の間から太陽が
キラキラと見えてとても綺麗だった。
「いいなぁ・・・・コレ、
 いい事見つけちゃった」
手の中の光を見ながら、リンさんは嬉しそうに言った
そんな彼を見て僕は不意に言いたくなった
彼は、どんな言葉を返してくるだろう・・・。
「僕は・・・・・・・
 自分が死んでしまってもいいと思います」
「それはナゼ?」
リンさんは光を見ながら僕に聞いた。
「僕が生きていても意味は多分無いから
 母は僕の事、要らないって思ってます
 学校でも友達は居ないし。
 凄い速度で・・・周りが過ぎて行くんです、
 自分だけ残されて、
 周りはどんどん過ぎて行って、だから、
 僕が死んでも、誰も気づかずに、変わらずに、
 毎日が過ぎて行くんじゃないかなって
 そう、思うんです」
「じゃあ流君は今死ねる?」
リンさんはやっと空と手の中の光から目を離し、僕と目を合わせて、
「夕飯何にするの?」って位の軽さで
聞いてきた、そんな質問された事ないけど
多分それくらいだ。
僕が呆気に取られていると、
リンさんはもう1度、僕に目で「どう?」と聞いて来た
「・・・・・・・・・死ねます。」
「そう、それじゃあ
 死んでしまって行きつく先は何処?」
そんな質問をされると思わなかった、
なんだか変な質問のような気がしたが
僕はちょっとだけ考えてから答えた
「て・・・・天国・・・・とか?」
「ふふっ、疑問形になってる」
「あ・・・・・。」
「良いんじゃない?
 死んで、行きつく先は天国
 僕も、矛盾してるけど
 天国はあってもいいと思うしあるとも思う。
 だから流君が幸せなら
 死んでしまってもいいと思う。
 ・・・・でも・・・・・それは幸せ?
 当たり前だけど、でも、
 幸せな日々を簡単に手放すのは
 流君の心の底からの幸せ?」
ほほ笑みながら聞いてくる質問に
僕は答えなかった、否、答えられなかった
目の奥から何かがこみ上がってくる感じだった
多分、今喋ったら、泣いてしまう。
リンさんの言葉は、どんな否定の言葉よりも僕に生きようと思わせた。
「コレで死なれちゃったら
 僕、罪に問われたりするのかな?」
気づいたようにリンさんは言った
そしてちょっと慌てながらも小声で
「それは困るな・・・。どうしよ・・・」と
独り言を言い始めた。
「リンさん!僕まだちゃんと生きますよっ!!」
僕が少し笑いながらリンさんの服を引っ張ると、
彼は安心した様に僕を見た。
「あぁ、よかったぁ、何にしても
 死んじゃったら大変だよ。」
「大丈夫ですよ、僕は
 ちゃぁんとおじいさんになりますからっ!」
多分、本気で死んでしまう気はなかったと思う
これからも死んでしまおうと
思う事があるかもしれないけど、
でも、きっと、心の何処かで
「イヤだ」と思っていて
だから、左手をボロボロにしながらも
僕は、今を生きていて、
これからも生きて行こうと思えた。
「ふふっ、
 僕ら昼間から何話してるんだろうね?」
「あっはは、ホントだ」
確かにお昼に公園でこんな話をしているのも
おかしく思えた、さっきは2人で空を
見上げてるって体制しかおかしく思えなかったのに、
よくよく考えると話の内容も変だった。
それから僕達は色々な話をした、そして、また会う約束をした
同じ様に1週間後に今度はこの公園で。
「それじゃあ、今日は送って行けないけど」
「平気です、また来週話しましょうね!」
「そうだね、じゃあばいばい。」
リンさんはニッコリ笑いながら、
公園を去って行った、
僕も今回はリンさんの背中を見たりしないでさっさと帰った、
この間のように早く母親が帰ってきたら、
また、倒れてしまう・・・。
「ただいま」
玄関に母の靴はなかったからすんなりと挨拶をした、
部屋に行くと僕は1週間前小銭が入っていた方のポケットから
紙切れを出した。
リンさんに貰った電話番号だ、
彼はバイトをしてるらしく、その給料で携帯電話を持っていて、
六時から十時がバイトだから、
その時間以外だったら何時でもかけて来ていいと言われた、
僕が電話をかける相手が居て羨ましいと言うと、リンさんは笑いながら
「僕は人と付き合うのは
 広く浅くなタイプだから」と言った。
そう言えばリンさんはよく笑っているような気がする。
それ以外の顔は始めてあった日の無表情ぐらいだ・・・・
そう言う風に考えると少しあの笑顔が偽物の様な気がした。

バタンッ
流君と別れた後、
僕が家に帰ると誰も居なかった、
たしか今日から1週間、母は出張だ。
カレンダーにそう記してあったから間違いないだろう。
部屋に行くと僕はクーラーを付けベットに転がってから、
すっかり長くなってしまった前髪を軽く引っ張った。
「んー・・・・・やっぱ長くなり過ぎかなぁ
 ・・・・暑いよなぁ」
夏は好きだが暑いのは勘弁して欲しい。
・・・・・・・・・・やっぱり8才に
「死んでもいいと思う」は不味かっただろうか、
僕は「夏が好き」と言う自分の発言で
最近出来た小さな友達の顔を思い浮かべて1人悩んだ。
うーん・・・・・・・・でも僕の考えが
自分が良ければ死んでもいいじゃん?って感じだしな・・・・・・
でも、それを8才の流君に言うべきじゃなかったんだろうけど、
「あぁー・・・・セミがウルサイ・・・」
自分の耳を塞ぐと、
なぜだか急に流君の左手を思い出した、
リストバンドがしてある左の手首、
あの下には何があるだろう・・・・。
僕はベットサイドに置いてある写真を手にとって、彼に話しかけた。
この間コレが流君の目に付かなくて良かったと思えた。
卑怯かもしれないが、自分が虐待されている理由を
まだ流君には言いたくなかった、
彼の事を少しでも話せば、一気にその事を
言ってしまいそう気がして少し怖かった
「スズ・・・・・流君はお前と同じ様に
自分を傷つけているんだろうか・・・・・」
・・・・・スズは僕の弟だった。
一つ下の弟の彼は今、病院に入院している、
元々心臓が弱くて、その事で彼はなぜだか死を急いでいた、
だから自分の手首を切って何度も死のうとした、
そして遂にスズは病院に運ばれて入院した、
心臓病患者そして精神病患者として・・・。
入院していたスズに、言った事がある、
ナゼそんなに死に急ぐ、と
すると彼はこう言った。
「僕は命が短いのを知っている、
 死んでしまうのなら、
 早く死んで恐怖を無くしたい」
それから僕はスズに会わなくなった、
と言うよりも会えなくなった、
母からの虐待が始まったからだ、
彼には決してこの事がバレてはいけなかった、
彼は、僕と違って’普通’だったから。
僕は幼い頃から僕は感情を表に出さなかった
否、出せなかった
だから、どんな状況になっても
泣かなかったし笑わなかった、
そんな僕を母親は気味が悪いと遠ざけた、
たしかに気味悪いかもしれない、
何時でもどんな時でも無表情だったから、
スズが手首を切っていた時も、
入院した時も、僕は泣いたりとか、
それを止めたりとかしなかった。
母はスズの入院から少しして、
僕とスズの2人を1人で育てなければならなくなった、
父と離婚したからだ、離婚の原因は単純だった、
僕が・・・・普通じゃないから。
目の前でその事を切々と語る母を
僕はただ見ていた、表情になんの変化もなく、
それがいけなかった、
それは母の癇に障ったようだった、
その日から・・・・・・僕への虐待が始まった。
なんとか、感情を出そうとした、
結局今の僕に出せる表情は、
無表情と笑顔だった。
「苦笑いって笑顔に入るよね・・・・・?」
自分でつぶやいて可笑しくなった、
思わず声を出して笑っていると、
手に持ったスズの写真が目に映った。
「スズ、
 流君のおかげでまた幸せが増えそうだよ」
そう言って僕はまた笑った、
初めて心の底から笑顔が出せた気がした。



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