放課後。
そこらじゅうで別れの挨拶と遊びの予定をたてる声が聞こえる
そんな中、私―逆井 空(サカイ ソラ)―は
誰とも声を交わさずにバタバタと帰りの準備を始めた
「あれ?空、もう帰っちゃうの?」
友達の秋が私の机に手をついて首を傾げる
「そ、今日はデートなんだ」
「あっ、良いなーっ」
秋は私の制服の端を掴んで引っ張り始めた
なんだ、なんだ
「私も彼氏欲しいーっ」
「いや、私にねだられても・・・・・」
と言うか早く行かせてください
「空は良いよねっ、常に恋する女って感じで」
「いや、一目惚れしやすいだけだけど・・・・・」
秋を宥めつつ帰る準備をしていると
「あーーーーーーっっっ」
「うわっ」
教室に響く大声
残ってた生徒が全員そちらを見た
どうやら掃除中に男子がふざけていたら
雑巾が高い窓に引っかかったようだ
「・・・・・取れるの?あれ」
「さぁ?」
今は雑巾が取れるかよりも
待ち合わせに間に合う方が重要
カバンに私物を詰めこみ終わった所で
秋に別れを告げた
ちなみに帰る際雑巾の行方が目の端にうつった
机の上に立ってとると言う単純極まりない方法
って言うか机に立つなよ・・・・・
まぁ、その机は入学式から来ていない不登校生の机だったから
文句を言う奴なんて誰も居ないけど

家に帰って服を着替えると待ち合わせ場所まで急いだ
どうやら、私の彼氏である結城(ユウキ)はまだ来ていないようだった
「焦って損した・・・・・」
小さな声で呟き軽くあくびをする
昨日遅くまで秋とメールをしていたのが今頃きいて来た
うとうととしていると後ろから肩を軽く叩かれた
結城かと思い振り向くとそこにはニッコリと笑った黒髪ショートの男
「えぇっと・・・・・・?」
「逆井空さん?」
「はぁ・・・・・」
間抜けた声を出すと彼は安堵の溜息をついた
「良かった、少し遅れちゃったみたいだから・・・・
 待ってたかな?」
「あ、いえ、まったく」
貴方を待っていた覚えはないですが
彼は少し不思議そうな顔をして私を見ている
「えーと・・・・・・あ、自己紹介がまだだったね
 僕は口日日 唱(クチヒビ ショウ)
 空の恋人、倉野結城にレンタルされた君の恋人だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
沈黙の後出た言葉に対しても
彼、口日日唱はニッコリと笑っている
「え、あの、どう言う、」
「ん?まぁ、簡単に言ってしまえば
 君の彼氏に1日かわりをしてくれって頼まれたみたいな感じ」
笑顔のままさらりと説明してくれるが
脳みそがついて行かない
何?レンタル?変わり?頼まれたって?
結城が?じゃあその結城は何処だ?
「・・・・・・・・それって・・・・・
 遠回しに別れを告げられましたか、私」
「まぁ、そうかも」
「マジで・・・・・・」
絶望?いやいやこれは失望
こんな別れの告げ方ありますか?
「・・・・・・呆れた、口日日っ、君は結城の友達?頼まれたの?」
「いや、本当に小遣い稼ぎでしてるの、レンタル彼氏
 結構儲かるよ?」
「あぁ、そう、じゃあ行くよ」
「・・・・・・するの?デート」
「当たり前、食い倒れツアーするよ」
「それ、デートじゃなくない・・・・?」
苦笑いする口日日を無理矢理ひっぱり
取り合えず秋とよく行くケーキバイキングの店へ入った
席に案内され、口日日を席に放置し
大量のケーキを持っていくと彼は目を丸くして驚いた
「それ、全部食べるの・・・・?」
「当たり前っ」
フォークをさすとスイートポテトパイのパイがザクリと音を立てた
そんな私を見て口日日は苦笑いしながら席を立つ
「ちょっとっ、帰ったら駄目っ」
「彼女残して帰る訳ないでしょ
 コーヒーとって来るだけだよ」
そう言って口日日はドリンクバーの方へと行ってしまった
「彼女・・・・・・」
そうか、奴はレンタル彼氏だった
てか、小遣い稼ぎにレンタル彼氏なんて変な奴だ
ポテトパイの最後の一口を口に頬張りつつ
不意に疑問が浮かんだ
その時、コンッと音を立てて
オレンジジュースが目の前に置かれる
「はい、よく解かんないからオレンジにしたけど」
「どーも・・・・・・・ねぇ、年いくつ?」
「はい?」
くわえかけていたストローを放し
少し驚いた顔をこちらに向ける
「いくつって・・・えーと、君と同い年なんだけど」
「じゃあ、高校生だ」
「まぁ・・・・・」
「高校何処?」
「一応、南風、全然行ってないけどね」
南風・・・・・・・・?
と言えば
「私もなんだけど」
「あれ?そうなの?」
そう返事を返して口日日は
今度こそコーヒーのストローに口をつけた
もっと、驚くとかないんだろうか、こいつは
「何組?」
「3組・・・・知らないと思うよ、ホントに」
そう言って困ったように眉を下げると
ストローで氷をカラカラと鳴らした
「・・・・・・・入学式だけ来た不登校生」
その呟きに口日日は目を丸くした
「知ってるの?」
「3組だもん」
短く返事を返して今度はショートケーキに手をつける
その時不意に引っ掛かりを感じた
なんだろ、なんか・・・・・違う?
えーと、いつもポテトパイの次はチーズケーキを食べるからかな
よく解らない引っ掛かりをそんな事で片付けて
私はショートケーキの苺を口に入れた
「で、なんで学校来ないの?」
「ん?入ったは良いけど面倒で」
なんて自己中な理由だ・・・・・・・
小さめのショートケーキはすぐに食べ終わり
次に私はフォンダンショコラを食べ始めた
「よく食べるね・・・・・」
「ヤケ食いしてるから、次何処行こうか」
「・・・・・・これ全部食べた後まだどっかいくの?」
「当たり前、次は買い物でも良いな・・・・」
チーズケーキに手を伸ばしつつそんな事を呟く
「買い物にしようよ、食べ物ばっか見てたら胸焼けしてくる」
「ん?口日日は甘いの嫌い?」
「別に食べれるし嫌いではないけど・・・・
 普通この量見たら誰でも気持ち悪くなるよ」
コーヒーを飲み終わったのか手持ち無沙汰に
頬杖をついたりしている
ぼーっとし始めたかと思うと急にこちらを向いた
「そうそう、唱で良いよ
 呼び辛いでしょ、名字」
「んー、解った、ねぇ、次何食べるべき?」
「・・・・・・何でも良いよ」
唱は苦笑いするとコップを持って席を立つ
多分コーヒーをとって来るのだろう
その間にプチケーキを2つ程消化して
チョコケーキにとりかかった
唱が戻ってくる頃にはそのチョコケーキも半分以上は
私のお腹の中にあった
「これ、貰って良い?」
席に戻った唱が指差したのは
ベリー系のムースケーキだった
「良いけど・・・」
「ありがと」
ニッコリ笑ってそれを食べ始める
「ね、学校来る予定ないの?」
「そうだねー、面倒だし
 このまま退学コースかなー?」
「くれば良いのに、そっちの方が楽しいし」
私の発言に唱は軽く首を傾げてから
楽しげに笑い始めた
「何?惚れてくれちゃった?」
「・・・・・別に」
「そう?」
唱は笑いながらもムースを口に入れる
楽しげな唱をロールケーキを食べながら観察する
顔、普通
性格、まぁまぁ
でもバイトがレンタル彼氏
どう考えても彼女ができるとは思えない
「レンタル彼氏なんて、彼女できなさそー・・・・」
突然な私の言葉に対して
唱は特に驚く事なく苦笑いを返してきた
「まぁ・・・・そんな堂々とやってる訳じゃないし」
「彼女がいた事は?」
「・・・・・・ないかな?」
その返答に思わず手に持っていたフォークを落とす
フォークは手元にあった残り少ないロールケーキに見事刺さった
私の反応は不服だったのなんなのか
唱はロールケーキに刺さったフォークを私に持たせ
パチンッと手を合わせた
「もうこの話しは終わりっ
 僕じゃなくて空の話聞かせてよ」
「私の話しなんて聞いてもつまんないし
 そもそもないもん、フられたばっかりだし」
ロールケーキの最後の一口を口に入れ
オレンジュースを飲む
ずっとおいてあったからか氷で味が少し薄くなっていた
「フラレたばっかりにしちゃ元気じゃない?」
見透かすように笑う唱
私は無言でティラミスを食べ始めた
その間も唱は私をずっと見つめている
「・・・・・・何?」
「見てるだけだよ?」
「・・・・・・・まぁ、向こうも唱を雇って別れつげたんだから
 大体解るでしょ?別れ時だったのー」
投げやりに言う私と
くすくすと笑みをこぼす唱
「あーあ・・・・恋したい・・・・・・」
「僕じゃダメなの?」
「・・・・・・さぁ?」
先程と似たような会話を繰り返し
私は席を立った
「さてっ、そろそろ行こっか」
「何処行く?できれば食べ物系はやめてね」
「CDショップ行きたい」
そう言って私がよく行くCDショップが
近かったのでそう告げると
唱は少し困った表情になりながらもOKしてくれた

「唱は音楽嫌いなの?」
珍しいのかよく解らないが唱は店内を注意深く見ながら
私の隣に立っている
私はと言うと好きなアーティストの新曲を買おうか悩んでいた
「えぇ?嫌いじゃないよ?
 好きな方だと思うけど?」
店内に意識があるのか
唱は少し心ここにあらずな返答をした
「ふぅん・・・・・ねぇ、なんでそんなっ」
私の台詞は途中で途切れる
理由は簡単、唱に腕を引っ張られた
「えええっ、なになになにっ!?」
唱は凄いスピードで路地へ入り駆けて行く
「ちょっ、唱っ、何処まで行くのっ?」
「えっ?」
私の言葉に唱はやっと止まり
こちらを向いた
「えーと、えーと・・・・ここ何処?」
「それはこっちの台詞っ
 急に何?」
「いや、えっと、ちょっと会いたくない人見つけて・・・・・」
唱は苦笑いをして辺りを見まわした
「取りあえず・・・・なんとかして大通りでなきゃね」
「道解るの?」
「・・・・・全く」
散々路地の奥へ奥へと入ったせいか
賑やかな声の方へと向かっても中々大通りまで辿りつかない
唱は私より少し先を歩いて
どの道が正しいのか見極めていた
その後ろ姿になんだか、違和感
何かが違うような、違和感
「あれ?何してんの?」
両手にゴミ袋を持った男が唱の姿を見て首を傾げた
先程のCDショップのエプロンを着ている
唱は慌てて私の腕を掴んで引き返そうとしたのだろうが
その人にすぐ腕を掴まれた
「待ってよ、さっきも逃げたよね?」
「いや、人違いじゃないですかね・・・・・?」
「片割れを間違う訳ないだろ、アイ」
・・・・・・・・・アイ?
「ちょっ、唱っ」
・・・・・・・・・唱?
私が2人の顔を見て不思議そうな顔をしたのか
唱は慌てて私の方を向いた
「ごめんっ」
・・・・・・・・・・・・・あ。
その瞬間初めの引っかかりも違和感の正体も解った
入学式なんて数ヶ月前ですっかり忘れていたが
そう、我が南風高校1年3組の不登校生は’女子’なのだ
なるほど、男にしちゃ後姿の線が細いと思った・・・・
「依頼者から聞いてて、同じ高校は不味いかなー?と思ったんだけど
 つい受けちゃって・・・・・・」
唱・・・・多分本名はアイなんだろうが、まぁ、唱の言葉を聞いて
本物の唱は眉を寄せた
「お前、まだレンタル彼氏なんてやってんのかよっ」
「だって、小遣い稼ぎになるし・・・・・
 彼女なんてやるより安全だし、僕に合ってるし」
どうやら’僕’という一人称は素らしい
本物の唱は私の方を向くと深深と頭を下げた
「ごめんなさいっ、妹がこんな事を・・・・・」
こんな言葉で改めて唱が女だと実感
にしても、同い年にこんな謝られたのは始めてだ・・・・
’気にしないでください’というと
唱と似たような笑顔で顔をあげる本物の唱

そして、私の中で何かが、変わった

「・・・・・・・・空、顔赤いよ」